拾年先の折は

言葉の言枝の言幹の言根の植わった土を翻訳するために。

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快晴。台風とともに夏休暇も終わる。花袋の「蒲団」の締めくくり、帰郷した芳子の寄越した手紙、ガラス戸に影を見る茶色の帽子は、時雄のものか田中のものか。しかも時雄は田中の見送りの姿を知らず、田中はまた芳子の手紙を知らない。

こんなしみったれた小説だったかと呆れ返りつつも、感謝と詫びの手紙の中にそのような決定不可能性の針を差し込んだナラティブの手腕には息を呑んだ。

言葉の言枝の言幹の言根の植わった土を翻訳するために。