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拾年先の折は

言葉の言枝の言幹の言根の植わった土を翻訳するために。

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快晴と大風。実家に帰る東北本線が強風の影響でかき乱され、黒磯で運休となった列車を見送り、一時間弱の停滞を余儀なくされた。申し訳なさそうな駅員に頼んで駅を出て、どこかで昼食を取ろうと冷たく晴れた外に出ると、駅前に知らない店が増えている。東京ではどこの町でも珍しくないブーランジェリーと、併設されたカフェ。固く焼いたアンパンとツナとオリーブのサンドイッチがよかった。固い皮の中はしっとりとしている。塩はひかえめなのか、エピは少しコクが足りなかったように思う。東京で開催されるクラフトベーカリーのイベントに出店しているらしいが、こういうパン屋をそう呼んでいるとは知らなかった。黒磯はどことなく灰色に寂れた感じが好きで、古い銀行の居抜きを改造した近代建築のカフェ・フランボワが気に入っているのだけど、新しい風が吹き込んでいるように感じる。駅前には相変わらず大きなヨーカドーのサインが目立っているけど。

 

黒磯から郡山への東北本線は、一本遅れで順調に走っていたが、白河を過ぎたところで停止信号が止まらなくなった。風で規制された列車の運行間隔が詰まっている。午後の陽が差して車内はもわもわと暑くなり、いらいらを抑え込んで黙り込む乗客の忍耐強さが、不自然なほど虚ろな静けさを作っている。通常は一時間弱の行程が相次ぐ停車と徐行運転で二時間余りにまで延長されて、いらいらとの戦いに疲れの色を見せる乗客は、待ちぼうけを食らっている先方からの電話に力なく呆れ笑い。「自然災害だから」のあとに言葉にせずとも聞こえてくるしかたないの五音節。日が傾いて西の高台の住宅地に隠れそうな午後四時過ぎは、晴れているのにさ細雪が舞っている。

言葉の言枝の言幹の言根の植わった土を翻訳するために。